留学の広告は「英語力ゼロでもOK」「3か月で話せる」と書く。 本当にそうなのかを、公的な資料で確かめようとした。
先に結論を書く。「◯か月の留学で△△に到達する」と断定できる公的データは、見つからなかった。 試験団体自身が「時間数は目安であって、学習の背景・強度・年齢・授業外の接触で変わる」と限定している。
だから、この記事は断定しない。代わりに、公的に出ている数字だけを並べて、自分の期間で何が起きるかを逆算できるようにする。 確認日はすべて2026年9月5日。制度は変わるので、申込み前に必ず公式で確認してほしい。
1. レベルごとに、どれだけの時間がかかるか
英語の到達度は CEFR という共通の枠組みで A1(入門)から C2(熟達)まで6段階に分けられる。 ケンブリッジ大学英語検定機構(Cambridge English)が、各レベルに到達するまでの「指導時間」の目安を公開している。初学者からの累計だ。
| レベル | 累計の指導時間(目安) | ざっくり言うと |
|---|---|---|
| A1 | 90〜100時間 | 挨拶・自己紹介 |
| A2 | 180〜200時間 | 買い物・道案内など日常の簡単なやりとり |
| B1 | 350〜400時間 | 旅行中に起きることに一通り対処できる |
| B2 | 500〜600時間 | 母語話者と無理なく会話し、議論に加われる |
| C1 | 700〜800時間 | 仕事・学業で自在に使える |
| C2 | 1,000〜1,200時間 | 母語話者に近い |
出典: Cambridge English「Guided learning hours」。**「1レベル上げるのに約200時間」「あくまで目安」**と同じページに明記されている。 右列の説明は私の要約で、公式の定義ではない。
この表の使い方は一つだけだ。自分がいまどこにいて、どこまで行きたいかを決めると、必要な時間が出る。 たとえばA2からB2なら、目安で300〜400時間。
2. 週に何時間、授業があるか
語学学校の一般英語コースは、国によって週の授業時間に基準がある。
- オーストラリア: 政府のELICOS基準(語学学校の認定基準)で、週20時間以上の対面授業が最低ラインと定められている
- カナダ: 政府や業界団体の標準値は見つからなかった。学校ごとに週15〜30時間の幅で提示されている(学校サイトの記載であり、公的な基準ではない)
- フィリピン: 政府の基準は見つからなかった。マンツーマン中心で1日7〜10時間を掲げる学校が多い(学校サイトの記載)
週20時間なら、3か月(約13週)で260時間、6か月で520時間になる。 これを1の表に当てると、初学者が週20時間で「B1の目安(350〜400時間)」に届くのは4〜5か月分の授業時間、ということになる。 **ただしこれは掛け算であって、到達の保証ではない。**授業の外で英語を使う量で大きく変わる、と試験団体が書いている通りだ。
3. 試験のスコアに直すと
留学先の大学や、帰国後の就職で使うのは CEFR ではなくテストのスコアが多い。公式の対応表を写しておく。
| CEFR | TOEFL iBT(新スケール 1〜6) | IELTS |
|---|---|---|
| B1 | 3〜3.5 | 5前後が B1/B2 の境界 |
| B2 | 4〜4.5 | 5.5〜6.5 |
| C1 | 5〜5.5 | 7〜8 |
| C2 | 6 | 8.5以上 |
出典: ETS「Compare TOEFL iBT scores」(現行の1〜6スケール。旧120点スケールとは別物なので注意)、IELTS公式「IELTS and the CEFR」。 IELTSは対応表の一部が画像で、本文の記述から取れた範囲だけを載せた。
4. 現地で働けるか
「留学中にバイトで稼いで足す」計画を立てる前に、学生ビザの就労条件を政府のページで確認した。ここは国でまったく違う。
| 国 | 働けるか | 条件(政府の公式ページより) |
|---|---|---|
| カナダ | 条件つきで可 | 学期中は週24時間まで、休暇中は上限なし。ただし対象は6か月以上で学位・ディプロマ等につながる課程の学生。語学学校(ESL)だけの就学では、学外で働く資格がない |
| オーストラリア | 可 | コース開講中は2週間あたり48時間まで、休暇中は上限なし。コース開始前は働けない |
| フィリピン | 不可 | 語学留学で使う SSP(特別就学許可)の保持者は、入国管理局の明示的な許可なしに収入を得る労働をしてはならない、と入国管理局の回覧に明記 |
出典: カナダ移民・難民・市民権省(IRCC)「Work off campus as an international student」、オーストラリア内務省「Student visa (subclass 500)」、フィリピン入国管理局 Memorandum Circular SBM-2015-007。
つまり、語学留学で「働いて生活費を補う」が成り立つのはオーストラリアだけで、カナダは語学学校のみでは不可、フィリピンは不可。 「現地で稼げる」と書いてある広告を見たら、どの国のどのビザの話かを確認したほうがいい。
5. 政府が「これだけ持っていろ」と言う額
学生ビザを申請するとき、生活費として一定額を証明する必要がある。政府が示す金額はそのまま「最低これだけかかると政府が見ている額」として使える。
- カナダ: 単身で 年 CAD 23,448(2026年9月1日以降の申請。学費・渡航費は別)
- オーストラリア: 学生本人で 12か月 AUD 29,710(学費は別。1AUD≒112円なら約333万円)
出典と、2026年9月8日の再確認:
- カナダ — IRCC Proof of financial support。一致を確認(2026年9月1日以降の申請は単身 CAD 23,448、2025年1月1日〜2026年8月31日の申請は CAD 22,895 と記載)。ケベック州は別基準
- オーストラリア — 内務省 Student visa (subclass 500)。AUD 29,710 は2026年9月8日時点で該当ページ上に見つけられなかった(
UNKNOWN)。初出時(2026年9月5日)の数字として残している
為替は2026年9月4日の前提値で、実際のレートで計算し直してほしい。
6. 留学した人は、その後どうなっているのか
これも公的データを探した。
- 日本学生支援機構(JASSO)が「海外留学経験者の追跡調査」を過去に3回(2004・2011・2018年)実施している。直近2018年は1,001人が対象で、約9割が留学に満足、約9割が考え方に変化があったと答えている。ただし測っているのは満足度と意識で、就職率や年収は測っていない
- 文部科学省・JASSO(トビタテ!留学JAPAN)の意識調査では、学生の9割が「留学経験が就活に良い影響」と答えている。これも本人の意識であって、実際の就職結果ではない
**「留学すると年収が上がる」という数字は、私が探した範囲では民間のブログや広告にしか出てこなかった。**公的な成果データは見つからなかった、と正直に書いておく。
逆算の手順
- いまのレベルと、行きたいレベルを決める(1の表)
- 差の時間数を、週の授業時間で割る(2)。それが期間の下限
- その期間で、行きたい国の学生ビザで働けるかを見る(4)
- 政府の生活費基準(5)と学費を足して、総額を出す
- 総額を手持ちと比べる → 貯金200万円で何か月できるか
これで「3か月で話せる」が自分にとって何を意味するかが、広告を読まなくても分かる。
この記事の数字はすべて2026年9月5日に公式サイトで確認した。制度・金額は年度で変わる。申込み前に必ず一次情報で再確認してほしい。ビザの個別判断はしない。大使館・領事館か専門家にあたってほしい。